予算管理・予算統制とは何か?社員が自走する仕組みの作り方【公認会計士・横山和寿がベトナムの実務を解説】

算を作っているのに、思うように利益が出ない。

そんな会社に共通するのは、「予算を作って終わり」になっているという点です。

ベトナムで8年間にわたり、日系中小企業の会計・財務支援を続けてきた公認会計士の横山氏。「予算管理のご相談は、最初の年から絶えず届いています。需要は非常に多いのに、それに応えられるサービスが少ない領域です。」

この記事では、予算管理・予算作成・予算統制の違いから、差異分析の実践方法、社員が自走するための評価制度設計まで、実務に即して解説します。

この記事でわかること

  • 予算管理・予算作成・予算統制それぞれの意味と違い
  • 予算統制の具体的な手順(差異分析からアクションへ)
  • 社員を巻き込んで予算目標を達成するための仕組み

 

本記事の内容をYouTubeでも解説しています♪【海外進出する経営者を応援!横山会計チャンネル】

予算管理・予算作成・予算統制の違いとは

「予算」という言葉は日常的に使われますが、予算管理・予算作成・予算統制は、それぞれ意味が異なります。

予算作成とは「目的地を設定すること」

予算とは、売上・経費・利益をあらかじめ設定し、その目標に向かって経営を進めていくための計画です。これを策定するプロセスが予算作成です。

一般的な予算の設計は「逆算」で行います。5年後に会社がどうなっていたいかをまず描き、そこから3年後、1年後と現在に向けて落とし込んでいく。社長が「その時点でどれだけの利益を残したいか」「何名のスタッフを抱えていたいか」「売上はどの水準か」を明確にすることが出発点です。

「方向性が決まっていないことの方が多いんですが、それが決まらないと来年のことも決まりません。変わってもいいので、まず決めましょう、と。目的地は途中で変えてもいいんです。」

予算統制とは「現在地を把握し、軌道を修正すること」

予算を作っただけでは、ゴールには近づけません。車で目的地を設定しても、地図を読みながら運転しなければたどり着けないのと同じです。

予算統制とは、作った予算と実際の実績を比較し、差異の原因を分析して、必要なアクションをとる取り組みです。場合によっては、差異が埋まらないと判断した時点で目標自体を見直すことも含まれます。

予算管理はこの両方を含む上位概念

まとめると、以下のような整理になります。

用語 内容 PDCAとの対応
予算作成 目標数値を計画・策定するプロセス P(Plan)
予算統制 実績と予算を比較・分析し、改善策を実施するプロセス D・C・A
予算管理 予算作成と予算統制を含む全体の管理活動 P〜A すべて

 

なぜ「予算を作るだけ」では意味がないのか

予算を作ること自体には大きな価値があります。目的地がなければ走り出せないからです。しかし、地図を持っていても読み方を知らなければ意味がありません。

重要なのは「現在地の把握」です。予算と実績の差分を毎月認識し、その差分を埋めるためのアクションを起こしていく。これが予算統制の本質です。

もし差分が大きくなっていくなら、目標自体を見直すことも一つの選択肢です。目的地は変えてもいい。ただし「今いる場所」を正確に知ることは、どんな状況でも必要不可欠です。

予算統制の実践ステップ:差異分析からアクションへ

STEP1|月次で予算と実績を突き合わせる

予算統制の基本は「月次での比較」です。年間の予算を月単位に分割し、毎月の実績と照らし合わせます。このサイクルを怠ると、問題に気づくのが遅くなり、手を打てる余地が狭まります。

STEP2|粗利を「売上」と「粗利率」に分解して分析する

予算と実績の差異を見る際、まず粗利を2つの要素に分けることがポイントです。

粗利 = 売上 × 粗利率

予算に対して実績の粗利が低い場合、その原因は2種類に分かれます。

  • 売上が落ちたのか
  • 粗利率が落ちたのか

この2つは、打ち手がまったく異なります。

売上が落ちている場合、マーケット自体が縮小しているのか、営業活動のやり方に問題があるのかを確認します。マーケットは生きているのに売上が落ちているなら、売り方を見直す必要があります。

一方、売上は落ちていないのに粗利率が下がっている場合は、仕入れ担当や価格設定側に問題がある可能性が高い。原因の種類によって、「誰に・どんなアクションを求めるか」が変わってきます。

STEP3|分析の粒度は「アクションが浮かぶレベル」に設定する

差異分析は、改善策が具体的に思い浮かぶ粒度まで細かくする必要があります。粗利と販管費と利益の3行しか見ていない場合、何が問題かがわからず、アクションにつながりません。

実務で使える3軸の分析設計

弊社が支援している卸売企業の実例では、以下の3軸で予算統制を行っています。

  • 顧客グループ別 — どの取引先グループで売上・粗利率が落ちているか
  • 製品別 — 製品A・B・Cそれぞれの売上減少・粗利率変化
  • 拠点別 — ハノイ・ダナン・ホーチミンの各拠点のPLで比較し、撤退判断の根拠にする

この3軸を組み合わせることで、「どこに・何の問題が起きているか」が見えやすくなり、経営判断のスピードが上がります。

また、管理会計として活用する場合は、財務会計の段階から勘定科目を細かく分類しておくことが重要です。「交際費」「広告費」「報酬費」など、日本企業になじみのある勘定科目の内訳を作っておくことで、予算と実績をリアルタイムで突き合わせられる状態になります。

社員が自走する仕組み:評価制度との連携

予算統制の最大の落とし穴は、「社長だけが必死で、他のスタッフは動かない」という状況です。どれだけ精度の高い差異分析ができても、改善アクションが実行されなければ意味がありません。

「売上で評価」すると赤字になるリスク

例えば、営業担当を「売上金額」だけで評価する制度の場合、何が起きるでしょうか。担当者はボーナスを上げるために値引きを繰り返し、売値が原価を下回ってしまうことがあります。「売れば売るほど赤字になる」という事態です。

評価軸を「粗利金額」にするとなぜ変わるか

解決策はシンプルです。営業担当の評価軸を「売上」ではなく「粗利金額」に設定すること。

こうすることで、担当者は値引きをすれば自分の評価が下がることを理解します。社長が「値引きするな」と繰り返し指示しなくても、スタッフが粗利を守る行動を自発的にとるようになります。

横山氏はこう言います。「業績賞与を粗利の金額で評価すると決めておけば、みんな自走します。予算統制のために能動的にアクションが起こせる評価制度を設計することが非常に大事です。」

全社一丸で動く仕組みへ

予算統制を機能させるためには、社長一人の努力ではなく、組織全体を同じ方向に向けるための仕組みが必要です。評価制度・勘定科目設計・月次レビューのサイクル——これらを組み合わせることで、社長が個別に指示しなくても、スタッフが自律的に予算目標に向かって動く組織が実現します。

まとめ——予算管理の方法を機能させる3つのポイント

予算管理を正しく機能させるには、次の3つのステップが必要です。

  • 地図を作る(予算作成) — 5年後・3年後・1年後の目標を逆算で設定する。目標は変えてもいい。まず決めることが重要。
  • 地図を読む(予算統制) — 月次で予算と実績を比較し、差異の原因を分析して改善アクションにつなげる。粗利を「売上」と「粗利率」に分解することが差異分析の鍵。
  • 全員を動かす仕組みを作る(評価制度設計) — 評価軸を粗利連動にすることで、スタッフが自走する組織へ。

予算を作って終わりにしている会社は、地図を持ちながら読まずに走っている状態です。ぜひ今月から、月次の予算・実績比較を習慣にしてみてください。

予算管理・予算統制の具体的な導入方法や、自社の状況に合わせた仕組み設計についてのご相談は、[お問い合わせ] からお気軽にどうぞ。

 

【この記事を監修した専門家】YOKOYAMA KAIKEI GROUP 代表 / 公認会計士 横山 和寿(よこやま かずひさ)

KDDIで営業を経験後、30歳で会計の道へ。

PwC Japan、楽天の海外事業立ち上げ(ルクセンブルク駐在)を経て、ロボットスタートアップのCFOとして活動。

2018年に独立し、東京とベトナム・ホーチミンにYOKOYAMA KAIKEI GROUPを設立。

「海外挑戦の意思決定を、数字と現場知で支える」をモットーに、会計・税務の専門家としてだけでなく、経営判断を支援する「伴走者」として数多くの日系企業を支援している。

※この記事は、YouTubeチャンネル「横山会計」の動画「【経営者必見】「予算を作るだけ」の会社は潰れる!?公認会計士が教える、社員が自走する「予算統制」の仕組み」の内容をもとに作成しました。

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