【ベトナムの旧正月】テトボーナスで離職を防ぐ設計と資金繰り対策とは?横山会計

ベトナムに進出した経営者が年に一度、必ず向き合う課題が「テトボーナス」です。旧正月(テト)前に支給が慣習化したこの賞与を、どう設計すれば従業員が定着し、会社の財務も安定するのか。ホーチミンで日系企業を支援する会計士の視点から、支給パターンの選び方・離職対策の実務・資金繰りの落とし穴まで解説します。
この記事でわかること
- テトボーナス(旧正月賞与)とは何か、13ヶ月目給与との違い
- 支給パターン3種類の特徴と選び方
- テト後の離職を減らす賞与設計の考え方
- 資金繰りで失敗しないための管理ポイント
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ベトナムの旧正月「テト」とテトボーナスの基本

テトとは?ベトナム人にとっての旧正月の意味
テト(Tết)はベトナムの旧正月で、1年で最も大切なイベントです。新暦の正月とは異なり、年によって1月後半から2月中旬ごろに訪れます。2026年は2月17日がテト元旦で、土日を合わせると約9日間の連休になりました。
ベトナム人にとってテトは「家族に会うため実家に帰る」特別な時期。街全体がそわそわとした雰囲気に包まれ、新暦の年末年始はほとんど休まず働く人も、テトは別格の過ごし方をします。日本人の感覚では「お正月がもう一回来る」ようなイメージですが、ベトナム人にとっての重みは日本のお正月以上です。
テトボーナスとは?13ヶ月目給与との違い
テトボーナスとは、テト前に支給されるボーナスのことで、「13ヶ月目給与」とほぼ同義で使われます。ただし厳密には異なります。
- 13ヶ月目給与:通常の12ヶ月分に加えて支給される1ヶ月分の追加給与。ベトナム語で「Lương tháng 13」。賞与の一形態。
- テト賞与:テトのタイミングに合わせて支払われる賞与全般の呼称。
慣習として「テト前に1ヶ月分を支給する」企業が多いため、「13ヶ月目給与=テトボーナス」という認識が広まっています。
法律上の位置づけ:義務か慣習か
テトボーナスは、ベトナムの労働法で支給が義務付けられているわけではありません。あくまで社会的な慣習です。
それでも「1ヶ月分は支給するのが当たり前」という空気が根強いのには理由があります。ベトナムの年間GDP成長率は7〜8%。日本の1〜2%と比べると経済が力強く成長しているため、「普通に働いたら1ヶ月分ぐらいはもらえるはず」という社会的な合意が形成されているのです。テトボーナスを出さない会社は、採用競争でも不利になります。
テトボーナスの支給パターン3タイプ

テトボーナスの設計には大きく3つのパターンがあります。
①固定型:全員に1ヶ月分を一律支給
最もシンプルなパターン。在籍している全従業員に、業績に関係なく1ヶ月分を支給します。
メリット: シンプルで管理しやすい。不満が出にくい。
デメリット: 頑張った人もサボった人も同額になるため、モチベーション設計としては弱い。
②固定+業績連動型:1ヶ月保証+業績分上乗せ
1ヶ月分を基本として保証した上で、業績への貢献度に応じて追加で支給するパターン。日本のボーナスに近い発想です。
メリット: 最低保証があるため従業員が安心する。高業績者には手厚くできる。
デメリット: 評価制度の整備が必要。
③全額業績連動型:テト前支給で全額変動
1ヶ月の保証をなくし、支給額を全て業績評価で決めるパターン。外資系や独自の強みを持つ企業で採用されることがあります。
メリット: インセンティブ効果が最大化する。
デメリット: 最低額が保証されないため、従業員の不安が高まりやすい。採用競争で不利になる場合もある。
どのパターンを選ぶかは経営方針次第ですが、多くの日系企業では②の固定+業績連動型が現実的なバランスを取りやすいとされています。
賞与設計と従業員モチベーションの関係

「平等に1ヶ月」はモチベーション設計として最善か?
テトボーナスを全員一律で支給する会社は多いですが、経営者の視点では一度立ち止まって考えてみる価値があります。
「あの人、ほとんど働いていないのに自分と同じ1ヶ月分もらっているんですけど…」という声が出れば、頑張っている社員のモチベーションを逆に下げることになります。
頑張った人が報われる設計が職場環境を変える
本来、賞与は業績への貢献を評価し、従業員のインセンティブ設計に使うものです。頑張った人には多く、結果が出なかった人にはそれなりに——という設計ができると、「あの人がこれだけもらったのなら、自分も来期は頑張ろう」という前向きな意識が職場に広がります。
育休明けや時短勤務など、やむを得ない事情で貢献度が落ちたケースには、それなりの額になることへの「納得感」も生まれます。テトボーナスを単なる慣習的な支出と捉えるのではなく、経営ツールとして設計する意識が重要です。
中途・新入社員の在籍按分の考え方
12月や1月に入社したばかりの社員に、フル1ヶ月分のテトボーナスを支給する企業はほとんどありません。在籍期間に応じて按分するのが一般的です。例えば、年の途中から働き始めた社員には「在籍月数 ÷ 12 × 1ヶ月分」で算出するイメージです。
入社直前だから2ヶ月分もらえる、ということにはなりません。この運用ルールを事前に就業規則に明記しておくことが、後のトラブル回避につながります。
テト後の離職問題と実践的な対策

なぜテト後に離職が増えるのか?
テト前後は、ベトナムの人材市場が最も活発に動く時期です。テトボーナスを受け取るまでは転職を保留し、受け取った後に動き出す——というサイクルが定着しています。
背景には「次のボーナスまでまた長く待たなければならない」という計算があります。テト明けはボーナスも出きっており、次の支給まで遠い。だからこそ、転職するなら今、という意識が高まりやすいのです。
業績賞与のタイミングをテト後にずらす戦略
テト後の離職率上昇に対して、効果的な施策の一つが「業績連動賞与の支給タイミングをテト後に設定する」ことです。
テト前に固定分(1ヶ月保証)を支給し、テト後の一定タイミングに業績評価分を追加支給する設計にすることで、従業員に「テト後も会社に残るインセンティブ」を持たせることができます。
社員旅行・チームビルディングの活用
テト明けの一定時期に社員旅行を設定する企業も少なくありません。ベトナムでは飲み会や社員旅行によるチームビルディングへの期待が大きく、「社員旅行が楽しみ」という声はよく聞かれます。
ただし、社員旅行をテト後の定着策として使う場合、「旅行が終わったらやめる」というパターンも起こりえます。あくまで補完的な施策として捉え、根本的には従業員満足度と会社の目指す方向性を一致させることが最も重要です。
経営者が見落としがちな資金繰りへの影響

テト前はキャッシュアウトが集中する時期
会計士の視点から見ると、テト前後は経営者にとって資金繰りの「要注意期間」です。従業員数が多い会社ほど、テトボーナスで一度に大きなキャッシュが出ていきます。300〜500人規模の会社であれば、実質2ヶ月分相当の支出になるケースもあります。
「お金が足りないので支給を遅らせてほしい」などと言えるはずもなく、支払えない事態は従業員の信頼を一気に失います。
税金支払いと重なる「ダブルキャッシュアウト」問題
さらに見落とされがちなのが、テト前の12月〜1月は税金の支払い時期とも重なるという点です。法人税や個人所得税の納付タイミングによっては、テトボーナスと税金の支出が同時期に集中する「ダブルキャッシュアウト」の状態になります。
また、ベトナムではリー・スー(お年玉のような慣習)を従業員に渡す企業もあり、社員数が多い場合はこれも無視できない出費になります。
資金繰り管理の具体的な進め方
こうしたリスクを避けるために有効なのが、資金繰り計画の事前作成です。
- テトボーナスの支給額を、在籍人数×平均月給で概算しておく
- 支給日の2〜3ヶ月前から残高の推移を月次で確認する
- 税金の納付タイミングと社員旅行の時期が重ならないよう調整する
「積み立てる」という発想よりも、「いつ・いくら出るかを把握して予測する」という習慣が重要です。資金繰り表を一度作成し、実績と照らし合わせながら更新していくと、将来の予測精度が上がり、経営判断の質が高まります。
まとめ:テトボーナスを経営に活かす3つのポイント

ベトナムの旧正月テトボーナスは、単なる「支払わなければならないコスト」ではありません。設計次第で、従業員のモチベーション管理・定着率向上・会社の財務安定すべてに影響する経営ツールです。
押さえるべき3点:
- 賞与設計を見直す:全員一律より固定+業績連動型が中長期的にモチベーション設計に効果的
- テト後の離職対策を先手で打つ:業績賞与のタイミング設定や、テト後のインセンティブ設計を事前に組み込む
- 資金繰りを計画的に管理する:12月〜1月はキャッシュアウトが集中する時期。税金支払いと合わせて月次で管理する
テトボーナスの設計や資金繰り管理について、ベトナムの専門家に相談したい方は、横山会計にお気軽にお問い合わせください。
【この記事を監修した専門家】YOKOYAMA KAIKEI GROUP 代表 / 公認会計士 横山 和寿(よこやま かずひさ)
KDDIで営業を経験後、30歳で会計の道へ。
PwC Japan、楽天の海外事業立ち上げ(ルクセンブルク駐在)を経て、ロボットスタートアップのCFOとして活動。
2018年に独立し、東京とベトナム・ホーチミンにYOKOYAMA KAIKEI GROUPを設立。
「海外挑戦の意思決定を、数字と現場知で支える」をモットーに、会計・税務の専門家としてだけでなく、経営判断を支援する「伴走者」として数多くの日系企業を支援している。
